グラノヴェッター「弱い紐帯の強さ」解説

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弱い紐帯の強さ

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(論文について)
Granovetter, Mark S. (1973)

”The Strength of Weak Ties” American Journal of Sociology, 78: 1360-1380


(用語)

  • 二者間の紐帯(dyadic ties) dyadic [形] 2項の tie [名] つながり・結び付き
  • ソシオメトリー(sociometry)人間関係の科学分野。集団における人間関係の特性を,成員間の牽引や反発の力学的関係としてとらえ,その量化測定を行う方法と理論。アメリカの心理学者モレノとその学派によって体系化された。社会測定法。 → ソシオグラム sociometryの意味(Weblio辞書) ソシオメトリーの意味 Wikipedia
  • エゴセントリック・ネットワーク(egocentric network)=局所ネットワーク egocentric [形] 1自己中心[本位]の 2利己的な.

(論文の目的)

(1)二者間の紐帯がマクロレベルでどのように影響するか

(2)二人が持つ友人のネットワークの重複は、二人の間の紐帯の強さに直接的な影響を受けて変化する

(3-1)紐帯の強さが、影響力の浸透や、情報伝達、職業移動の機会、コミュニティの組織化にどのように影響するか

(3-2)その際に強い紐帯が持つ凝集力に着目

(4)従来のネットワークモデルは、強い紐帯を扱うため、適用対象は小集団に限定されるが、弱い紐帯に着目することで、「集団間の関係」について論じることができる。

 

個人間の紐帯(interpersonal ties)に限定して論じる

(A)ミクロレベル(小集団)・・・データと理論が蓄積

(B)マクロレベル(社会移動、コミュニティの組織化、政治構造など)・・・大規模で統計的研究が進んだ

このAとBが関連付けられていない(1973年時点では)

個人間の紐帯の影響

個人間の紐帯の影響


紐帯の強さの定義

  • ともに過ごす時間
  • 情緒的な強度
  • 親密さ(秘密を打ち明けあうこと)
  • 助け合いの程度

紐帯の強さに着目

Aさん、Bさん、Cさんがいるとき、AB間の紐帯が強ければ強いほど、BC間にも紐帯が生み出される可能性が高くなる。AB、AC間は過ごす時間が長く、両者は互いに似通っているから。

強い紐帯ではBCはほとんどの場合つながる

強い紐帯ではBCはほとんどの場合つながる

上記、図4-1はつながりが強い紐帯である場合はあり得ない。BC間も当然強い紐帯となる可能性が高い。


局所ブリッジ

ブリッジ(bridge)とはネットワーク内の2点間をつなぐ唯一の経路(path)となるような線[紐帯]のこと(Harary, Norman and Cartwright 1865, p. 198)
上記、図4-1において、BC間は遅かれ早かれ強い紐帯によってつながる。その場合AB間の紐帯はブリッジとはなりえない。

弱い紐帯は広がりを持つ。それによって生まれた大きなネットワークにおいて、弱い紐帯が局所的に橋渡し機能(bridge function)を持ちブリッジ(局所ブリッジ)となる。(図4-2)

A-BはF,D,CにとってはBへの最短ルート。

大きなネットワークにおいては特定の紐帯が2点間の唯一の経路であるということは、現実にはまれにしか起こらない。

局所ブリッジ

局所ブリッジ

局所ブリッジが複数ある方が、より短い経路を作り出す。

弱い紐帯が複数の局所ブリッジを作る

弱い紐帯が複数の局所ブリッジを作る


 

強い紐帯はクリーク内に埋もれる

強い紐帯は広がりを持たないため、複数の局所ブリッジを持つようなモデルにならない。

例えば、ある人が自分の親しい友人たち全員にうわさ話をし、その友人たちが同じように自分の友人にうわさ話をしても、友人たちの多くは同じうわさを2度も3度も繰り返し聞くことになる。強い紐帯で結ばれた人々は共通の友人がいる傾向があるから。強い紐帯を通じて移動する情報は、弱い紐帯を通じて伝わる場合に比べて少数のクリーク内に留まる傾向が強くなる。つまりブリッジを渡ることがない。

図(クリークを越える)

弱い紐帯はクリークを越えてつながる

弱い紐帯はクリークを越えてつながる


周辺的な人は有利

ソシオメトリーでは多くの人から選ばれる人=中心的(central)な人であり、あまり多く選択されなかった人=周辺的(marginal)

イノベーションを最初に採用するのは周辺的な人たちだが、次のグループ(早期に採用した人たち)はより中心的な人たち。この場合、いかにイノベーションを広げることができるのか?

多くの弱い紐帯を持つ個人は、そうした困難なイノベーションを普及させるのに最も有利な位置にあることになる。なぜなら、彼らは局所ブリッジになりえるから。弱い紐帯をほとんど持たない人たちに広められると、イノベーションはクリークを越えられず、いわば死産となる。

親友がいない=弱いつながりを多く持てる

カーコッフら(Kerkhoff, Back and Miller 1965)の研究では、ある工場内で伝染病に最初にかかった6人の労働者のうち5人は、労働者全員の親友(3人の名を挙げるもの)かとの問いにおいて誰からも親友と言われていない。しかし、友人関係以外の基準ではその6人の女性は他のカテゴリーのどの女性よりも多く選択されている。

ミルグラムのスモールワールド

ミルグラムの有名な「スモールワールド」研究(Milgram 1967)において、白人から黒人に小冊子を届けるミッションの場合、最初に白人から黒人に引き渡される関係が「知人」であった時の成功率は50%だったが、「友人」だった場合は26%に落ちる。異人種間の弱い紐帯は、社会的距離を乗り越えるのに効果的である。

異人種間を越える場合の差異

異人種間を越える場合の差異


エゴセントリック・ネットワーク

エゴセントリック・ネットワーク(局所ネットワーク)の重要性は、直接の知り合いでない人に接触するのには、たいていはそのエゴセントリック・ネットワークに含まれる紐帯を使うはずであり、それらの紐帯が、社会的距離の離れたところにあるアイデア、影響力、情報への橋渡しをする点に現れる。

エゴセントリック・ネットワーク

エゴセントリック・ネットワーク

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjsai/29/1/29_A-TS13_5/_pdf から抜粋


 

グラノヴェッターの実験

「イノベーションは弱い紐帯からやってくる。」

グラノヴェッターの実験(Granovetter 1970, pp.76-80)では、転職情報をくれた人とどの程度会っていたかとの問いに対しての回答。

  • 「頻繁(週2回以上)」が16.7%
  • ときどき(週2回~年2回)が55.6%
  • めったに会わないが27.8%

であった。(週2回未満しか会わない人が83.4%)

その情報提供者は誰からその転職情報をもらったかとの問いへの回答

  • その転職先の雇い主=39.1%
  • その雇い主と情報提供者の間に媒介者1名=45.3%
  • 媒介者2名=12.5%
  • 媒介者3人以上=3.1%

と回答。(N=64)

つまりは、自分と自分の接触相手、さらにその接触相手の接触相手(つまりは上記図1の(a)のネットワーク)程度を含めたエゴセントリック・ネットワークを扱っておけば目的を達成できる。転職情報が長い情報伝達経路を経てもたらされた場合は多数の人に知られてしまうため情報としては価値が下がる。


弱い紐帯が必要な理由

弱い紐帯は社会的凝集性をもたらす重要な資源である。

転職者はひとつのネットワークから別のネットワークへ移動していくがその時に連結(link)を架設する。特に専門業界内で移動が発生すると業界内ネットワークの中に散在する凝集的なクラスター間を橋渡しする弱い紐帯が生まれる。その紐帯は業界内の様々な小会合や大会議の開催によって強化される。会議の最重要機能は弱い紐帯を維持することにあると言ってもよい。

仕事などのオフィシャルな場は弱い紐帯を作るための格好の場である。

弱い紐帯でつながるネットワークの次数が高い方が良い。


 

強い紐帯だけではクリークを越えられず危機に対応できない

ガンズの研究(Gans 1962)によれば、ボストン・ウェストエンドにあるイタリア系コミュニティは都市再開発に対抗するための組織を形成できず、結局コミュニティが崩壊してしまった。原因は、図(クリークを越えるか)の左のケースにみられるように、強い紐帯のみでつながったコミュニティであったため、クリークを越えた規模の大きなコミュニティを形成できなかったこと、またアイデアを得る機会を失ったこと。


これからの課題

  • 紐帯の強さ、内容(専門化の程度)などはどう関係するのか
  • 紐帯の種類、例えばネガティブな紐帯をどう扱えばよいのか
  • 紐帯の強さも連続変数として構築していくべきなのか
  • 時間の経過とともに、ネットワーク構造はどう発達するのか
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